“口を触る練習”がすべての始まりです
2025.11.21 BLOG
「うちの子、歯みがきをしようとすると怒るんです」 「口に手を近づけるだけで逃げてしまって…」
これは、当店でもよく耳にする飼い主さまからのお悩みです。
そして実は、この声は決して特別なことではありません。
ワンちゃんにとって「口を触られる」という行為は、本来とても繊細なこと。敵意がないとわかっていても、口元は“急所”でもあるため、防衛反応が出やすい場所なんです。
でも、ここに“しつけの失敗”があるわけではありません。
実はほとんどのワンちゃんが、「歯みがきの前段階」をすっ飛ばしてしまっているだけなのです。
だからこそ、今日お伝えしたいのは
「歯をみがく」前に、「口を触る」ことに慣れていきましょう
という、まったく新しいスタートの提案です。
「歯みがきは健康にいい」でも、できない現実
歯周病は、成犬の8割以上が抱えているといわれる生活習慣病。
口臭や歯石だけでなく、肝臓・腎臓・心臓など全身疾患との関係も報告されています。
つまり、歯みがきは「美容」ではなく「命を守るケア」。
…なのですが。
実際に歯みがきを習慣化できているご家庭は、まだまだごく一部です。 なぜでしょうか?
それは、いきなり“歯をみがこう”としてしまうから。
人間の子どもも、いきなり歯ブラシを口に突っ込まれたらびっくりして嫌がりますよね。
それと同じで、ワンちゃんも「口を触られること」に慣れていなければ、当然、抵抗やストレスを感じます。
だからこそ、大切なのは“準備の準備”。 それが「口を触る練習」なんです。
科学が教える“慣れ”のプロセス:段階的脱感作
犬の行動心理において、恐怖や不快感を取り除くためのアプローチに「段階的脱感作」という手法があります。
これは、
苦手なものに、少しずつ慣れさせていく
という科学的な方法。
いきなり刺激を与えるのではなく、「このくらいなら大丈夫」という範囲から少しずつステップアップすることで、“安全で安心な経験”として記憶に残していくのです。
この理論は、獣医行動学の専門家や、動物病院の歯科医療の現場でも採用されており、実際に「口腔ケアを嫌がらなくなった」という臨床報告も数多くあります。
つまり、いきなり歯をみがく必要はないんです。
まずは「口を触る」「口を開ける」という練習から始める。
それこそが、“未来の歯みがき成功”に向けた第一歩なんです。
口を触る練習のステップ
ここでは、当サロンでも実践している「触る練習」の基本ステップをご紹介します。
🐾 ステップ1:顔まわりをやさしく撫でる
ほっぺ・アゴ下など、触れられて気持ちいい場所からスタート。
嫌がらなければ「いい子だね」と少しオーバーなくらい褒めてあげましょう。
🐾 ステップ2:口のまわりに指を近づける
口角の横あたりに指先をそっと近づける練習。
このとき、おやつなどポジティブな経験をセットにすると、良い印象が残りやすくなります。
🐾 ステップ3:唇を軽くめくる
上唇をそっとめくって歯が見える状態に。
この段階でも無理に長時間触れないことがコツです。
もしも歯に触れられるようなら犬歯からチャレンジすることをお勧めします。
🐾 ステップ4:前歯をコットンで軽く拭く
歯ブラシはまだ使いません。
まずは“ふきとる”感覚をお互いが体験することで、今後の歯みがきに向けた橋渡しになります。
「嫌がる=失敗」ではない
触る練習を始めても、最初は嫌がることもあるかもしれません。 でも、それは自然な反応です。
嫌がる姿を見て「うちの子はダメなんだ…」と落ち込まないでください。
むしろ「ここまで来れたね」「今日はここまでにしようね」と声をかけてあげてください。
大切なのは、少しずつ慣れていく過程をポジティブにとらえること。
焦る必要はありません。 毎日、短時間の練習で十分なんです。
“触れる”ことが、信頼を作る
口を触るという行為は、ワンちゃんにとってとても繊細な経験。
だからこそ、そこに信頼が生まれます。
触れながら褒めて、見つめ合って、安心を伝える。
その積み重ねが、「歯みがき=怖くない」「ケア=嬉しい時間」へと変えていくのです。
私たちは、歯みがきのゴールを「完璧な清掃」ではなく、
「愛情の中にケアがある」状態
を目指しています。
そのスタートラインは、まさに「口を触る練習」。
今日から、ワンちゃんとの新しい信頼づくり、始めてみませんか?
